健康教育のポイント⑧評価

保健師の日常

長い準備期間を終え、本番を成功した今、一息つく前に評価をしなければなりません。

評価をすることで、次回の健康教育に活かすことができたり、次年度の同じ事業で改善することができます。

また、次年度同じ形で健康教育を実施しようと思った場合には、予算をとらなければなりません。一般企業ほど綿密な費用対効果等の実績を求められないかもしれませんが、効果のない健康教育に税金を投入するのは行政としては良くありません。予算や財政を担当している部署に、「この健康教育はこんな効果がありました。だから次年度もやっていくことが住民の利益になりますよ。」と伝える意味でも、きちんと評価をしておく必要があります。

そんな健康教育の評価について簡単にご紹介します。

評価方法

健康教育の評価方法は幾つかあります。

  • ストラクチャー評価
  • プロセス評価
  • アウトプット評価
  • アウトカム評価 など

健康教育の参考書などでよく取り上げられているのはこの4つです。これらは、健康教育のみならず、一般企業でも活用される評価方法です。

本記事ではこの4つの評価方法について簡単にご紹介します。

ストラクチャー(構造)評価

ストラクチャー(構造)評価は健康教育の体制を評価します。保健指導に従事する保健師や管理栄養士等の人数や予算、医療機関等との連携体制などを評価します。

健康教育の場合、調理実習をするのに十分な設備があるか、調理実習をするのは保健師か管理栄養士かなどがストラクチャー評価にあたります。

次年度に更に健康教育参加者を増やすためには、もっと広い会場を借りる必要があるなら施設や予算の検討が必要になってきます。

このような体制の評価がストラクチャー評価です。

プロセス(過程)評価

プロセス(過程)評価は健康教育の目的や目標に向けた過程を評価します。

計画通りに健康教育の準備を行うことができたか、目標達成に向けた方法であったか、媒体は対象者に適していたかなどです。

例えば、高血圧罹患者数減少を目的にして、高血圧予防教室を実施するとします。広報誌で全住民を対象に周知し、結果的に高血圧リスクの高い人も低い人も関係なく、健康的な食事に関心の高い住民が参加しました。地域全体の高血圧に関する知識は増えましたが、高血圧罹患者数の減少にはつながりませんでした。

この場合、周知方法を健診受診者の中の高血圧リスクの高い住民に絞ることで、効率的に高血圧罹患者数減少のためにアプローチができます。

このように、周知方法や媒体、健康教育を行う時期が適切だったかなどの評価がプロセス評価です。

アウトプット評価

アウトプット評価は分かりやすく、評価もし易いです。さらに、健康教育後に業務報告書を記載する際にも書き易い項目です。

アウトプット評価は「健康教育をどのくらいやったか」の評価です。

具体的には

  • 〇人の対象者に全△回の健康教育を実施した。
  • 参加者は延べ〇人、実×人 など

このような形で評価できます。もっと細かく記載するならば「食事に関する健康教育を1回、運動を1回、薬を1回」「1回□分の健康教育を△回」となります。

このように、健康教育を何回やったか、参加者はどのくらいだったかなどの評価がアウトプット評価です。

健康教育の目標が達成できなかった場合には、実施回数が足らなかったか、実施内容が適切でなかったかなどの改善をすることができます。

アウトカム評価

アウトカム評価は、健康教育の結果、どのような効果が得られたかを示します。

高血圧症予防の健康教育ならば

  • 健康教育後のアンケートで参加者全員が「十分理解できた」と回答した
  • 参加者の80%が毎日運動をするようになった
  • 健康教育後の参加者の血圧が平均5mmHg下がった

このような評価となります。

高血圧症予防の健康教育の目的は「高血圧症の発症・重症化予防」です。そのためには、参加者が高血圧症の予防行動をとるよう健康教育を行います。予防行動をとるためには、健康教育の内容を理解すること、行動変容のための意欲があることの2つが必要になります。ただ、健康教育に参加している時点である程度の意欲があると考えられます。

そのため、健康教育のアウトプット評価は「理解できたか」「予防行動がとれているか」「血圧等の数値が改善したか」で確認できます。

目標達成のハードルが低い順に「理解できたか」「予防行動がとれているか」「血圧等の数値が改善したか」です。

1番ハードルが低いのは「理解できたか」です。これは、健康教育直後のアンケートで評価できます。選択肢を次のように設ければ、更に評価し易いです。

  • 十分理解できた
  • だいたい理解できた
  • あまり理解できなかった
  • 理解できなかった

ちなみに、「理解できた」と「あまり理解できなかった」の間に「どちらでもない」を入れると、「どちらでもない」と回答する人が増えるため、評価し難くなります。

2番目にハードルが低いのは「予防行動がとれているか」です。これは、健康教育後一定の期間を空けて郵送やメール、インターネットを利用してのアンケートで回答が得られます。数回のコース制の健康教育ならば、次回の健康教育実施時にアンケート等で評価しても良いでしょう。

「理解できたか」よりハードルが高い理由は、意欲が関わってくるからです。健康教育に参加している時点で一定の意欲があると考えられる参加者ですが、健康教育で学んだ予防行動を実行し、維持するためには意欲を持続させる必要があります。行動変容ステージモデルでいうところの実行期から維持期へ移る段階です。

「予防行動を始めてみたが3日坊主になってしまった」というのは多くの人が経験していると思います。そのため、「理解できたか」よりハードルが高くなります。

最もハードルが高いのが「血圧等の数値が改善したか」です。これは予防行動を維持しなければ改善しません。また、正しい予防行動を継続する必要があります。

血圧改善のためにウォーキングを始めても、ウォーキング後の晩酌の量が増えては数値は改善しないのです。

また、期間的な問題もあります。血圧ならば健康教育後に会場で測ることもできますが、血糖値や脂質、腎機能等はそうはいきません。次の健診結果を参考にすることもあるでしょう。そうすると、年度をまたぐことになります。行政という組織の都合上、年度内に評価しないと報告書に記載できない場合もあります。また、健康教育参加者が次年度に健診を受けなかったり、健康教育を実施した保健師自身が人事異動で部署が変わる可能性もあります。

これらの理由で「血圧等の数値が改善したか」の目標達成はハードルが高くなります。

補足として、「血圧等の数値が改善したか」を評価しやすくする方法の1つは医療機関に協力してもらうことです。健康教育後に採血をしてデータを得ることで、血液データの改善について評価できます。

まとめ

  • 評価方法は主にストラクチャー評価、プロセス評価、アウトプット評価、アウトカム評価の4つ
  • 評価し易いのはアウトプット評価とアウトカム評価
  • アウトカム評価の内、「血圧等の数値が改善したか」という点での評価は達成が難しい

今回は健康教育の評価方法についてご紹介しました。

健康教育の目的達成のためにはアウトカム評価が大切になります。「血圧等の数値が改善したか」という点での評価はハードルが高いとお伝えしました。しかし、実際に健康教育を行うと意外と数値が改善する方は多くいます。

数値の改善が見られたら、その結果を次年度の健康教育の宣伝に使うこともできます。

数値の改善ができるような健康教育を目指していきましょう。

補足

アウトカム評価が難しい例として、介護予防に関する健康教育が挙げられます。介護予防の健康教育は、フレイルやサルコペニア、要介護状態にならないことを目的として行います。体力測定をして、体力の低下が無いことは確認できますが、健康教育をやらなかった場合の体力低下の程度を直接計測することはできません。また、健康教育参加者と不参加者で要介護認定を受けている方の割合を比較することもできますが、1ヶ月や1年で急激に体力が低下するわけではないため、正確に判断するならば3年、5年の追跡調査が必要になります。

このように、現状維持を目的とした健康教育の評価は長い期間を要するため、しっかりとした計画を立て、人事異動で担当者が変わっても継続できるような体制を整える必要があります。3年間健康教育をおこなっても効果が得られない場合のリスクもあります。

一方で、その健康教育に効果があったならば、自治体の医療費や介護関係費用の削減につながります。また、一次予防は保健師としても重要なポイントの1つです。

現状維持を目的とした健康教育は体制整備や効果が得られなかった際のリスクがある分、得られるものも大きいです。

健康教育のポイント

この健康教育のポイントシリーズでは健康教育の一連の流れとそのポイントについてご紹介しました。

押さえたいポイントは幾つかありますが、一番大切なのは「住民に健康になってほしい」という保健師の熱意だと思います。

最初はどこから手を付けてよいのか分からず、右往左往することもあると思いますが、自分は住民にどんな風なってほしいのかという思いをもって取り組めば、その思いは参加者に伝わると思います。

筆者はあなたの健康教育を応援しています。是非、素敵な健康教育を作り上げて下さい。

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