看護師と保健師の違い①対象者

保健師の日常

以前の記事で保健師は看護師と同系統の職種だとお伝えしました。

実際に、保健師として働くためには看護師免許と保健師免許の両方が無いといけません。保健師免許だけ取得していても看護師免許を持っていなければ、保健師として働くことができないのです。

看護師と保健師は「健康」や「病気」、またその人の「生活をサポートする」という意味では共通しています。

しかし、働く場所やアプローチする対象、アプローチする際の視点が大きく異なります。

今回はそんな保健師と看護師の違いを、対象者に焦点を当ててご紹介しようと思います。

※この記事でご紹介する看護師は急性期病院の看護師、保健師は市町村保健センターの保健師、特に健康増進関係の事業を想定しています。

アプローチする対象

看護師のアプローチする対象は主に患者とその家族です。そして、健康になるための行動をするのは看護師がメインです。

清拭をする、食事介助をする、注射をするといった行為の主体は看護師です。

一方、保健師の対象は住民です。健康になるための行動をするのは対象者自身です。

生活習慣病にならないように食習慣を変える、の仕方を工夫するといった行為の主体は対象者自身です。

これは、看護師と保健師の大きな違いと言えます。看護師は健康になるための行動の主体が看護師自身であるため、アプローチ(看護)する際には、説明と同意が必要になります。保健師の対象は健康になるための行動をする住民自身であるため、望ましい行動がとれるようにアプローチする必要があります。

対象者のモチベーション

保健師の対象となるのは住民です。保健師は住民がより健康なるように、また、病気にならないようにという思いで関わります。しかし、住民自身は、現在の健康状態に困っていないと思っていることがあります。つまり、保健指導が必要ないと思っている住民に対し保健指導をすることがあるのです。

看護師の対象となるのは患者です。看護師は患者が安全・安楽に過ごせるように、また、適切に治療が受けられるように関わります。患者自身も病気を治したいという思いで病院に来ます。そのため、病気を治したいという思いは看護師と患者で共通していることが多いのです。

このように、対象者の健康や病気に関する思いの違いは看護師と保健師で大きく異なります。

アプローチ方法の違い

対象者のモチベーションが違えばアプローチ方法も異なります。

看護師の場合は、病気を治したいという思いは患者も看護師も共通しています。そのため、看護の方法について説明し、同意を得て実施します。

しかし、保健師の場合は病気のリスクを低下させたいという保健師の思いと、健康だから今の生活を続けたいという対象者の思いとの間に違いがあります。そのため、病気のリスクを低下させるための方法について説明し、同意を得るだけでは効果がありません。

モチベーションが低い人に、

「こういう生活習慣に変えるとこんな効果が得られます。このようにしていただけますか。」

という具合に説明しても、同意が得られません。もしくは、同意が得られたとしても対象者は実施しません。自分は健康だと思っている人が他人から生活習慣について指摘されても、不快に思うだけでやろうとは思わないのです。

そのため、保健師は対象者のモチベーションを上げるためのアプローチも必要になります。

言い換えるなら健康的な行動をとりたくなるような、また、とってしまうような伝え方をする必要があるのです。

対象者のモチベーションを上げるための方法は沢山あります。

  • 生活習慣病になるリスクを伝える
  • 生活習慣病になったあとの生活について伝える
  • 家族も心配しているなど他の動機を作る
  • 健康的な生活って意外と簡単ということを伝える など

これらは、対象者のモチベーションを上げる方法のほんの一例です。

こうした方法は多くの研究がされており、ヘルスビリーフモデルや動機づけ面接、エンパワメントなど体系化されたものも多くあります。

こうした方法を駆使して、対象者のモチベーションを上げ、”対象者が”望ましい行動がとれるようにアプローチするのが保健師です。

まとめ

  • 保健師の対象は健康行動をとる住民自身
  • 住民は健康行動をとる必要がないと思っている場合がある
  • 保健師は住民のモチベーションを上げる方法も活用する

今回は看護師と保健師の違いを対象者に焦点を当てて紹介しました。筆者の実感として、対象者のモチベーションの違いは大きいと思います。

筆者が特定保健指導で関わった方の中に、「俺は楽しく生きれれば良い。別に長生きしなくても良い」という方がいました。こうした考えの方は結構多いのです。

こうした方に、「今の生活を続けると糖尿病になりますよ」と伝えても効果は0です。

その人にとって楽しく生きるとは、どういうことなのか。今の生活を一生続けたいのか。糖尿病になって透析になったら、楽しいことは継続できるのか。

といった風に、話を聞きながらその人の思いを引き出していくことが、第一歩ではないかと思います。

少しでも思いを引き出し、対象者との関係性を作ることができてから、生活習慣のどこを変えたらよいのかという方法論に話題を移していきます。

このモチベーションを上げるところが保健師の難しいところでもあり、面白さでもあるのかなと思います。

この記事が保健師という職業を考えている人の参考になれば嬉しいです。

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