保健師という職業は健康教育をすることがあります。
保健師免許を持つ方や保健師学生さんは、授業や実習でやったことがあると思います。
筆者は保健師時代に成人保健を担当しており、健康教育も行っていました。生活習慣病予防や介護予防の健康教育が主でした。
保健師1年目で健康教育を始めて実施する際には、どういう段取りで準備してよいのかも分からず参考書を沢山読んだり、プレゼンテーションの本を読んでみたりして勉強したことを覚えています。
健康教育の勉強をするために健康教育の参考書を探すのですが、意外と健康教育の参考書は少なかったです。学生時代のテキストは概論や総論的な部分が多く、具体的な「健康教育のポイント」的なのは載っていませんでした。
そこで今回からの「健康教育のポイント」シリーズでは、筆者が健康教育を実施するうえで意識していた点をご紹介していこうと思います。
健康教育とは
そもそも健康教育の定義は何でしょうか。
WHOでは健康教育を2つに分けて定義しています。
1つは「健康に関する態度や行動に影響する、個人・集団・地域住民のすべての経験と、そのような影響を与えるための努力や過程を含むもの」
もう1つは「上記のすべてを網羅するような経験・努力・過程のうち、意図的に計画されたものだけを意味する」※1
また、日本健康教育学会では次のように定義しています。
「健康教育とは、一人一人の人間が、自分自身や周りの人々の健康を管理し向上していけるように、その知識や価値観、スキルなどの資質や能力に対して、計画的に影響を及ぼす営みです。」※2
どちらの定義も少し難しい表現に感じます。
筆者的な健康教育は「対象者を健康にしようとする働きかけ」といったところです。
つまり、「腎臓病予防教室」や「運動教室」も健康教育ですし、「糖尿病予防のパンフレットを作成する」ことや「禁煙パンフレットを配る」といったことも広い意味では健康教育になると思います。
様々なとらえ方のできる健康教育ですが、この記事で紹介する健康教育は、「腎臓病予防教室」や「運動教室」、「介護予防教室」などです。
つまりは「保健師からの複数の対象者を健康にしようとする働きかけ」についてお伝えしようと思います。
※1宮坂忠夫:第1章健康教育・ヘルスプロモーション概論(2003)から引用
※2日本健康教育学会ホームページから引用
流れ
健康教育の流れはこんな感じです。
- 目的を決める
- 目標を決める
- 対象者を理解する
- 方法を考える
- 日程調整、会場確保
- 周知
- 練習
- 実施
- 評価
1つ1つ見ていきます。
目的
まず最初に健康教育の目的を決めます。
対象者にどうなってほしいのかということです。
「病気について理解する」「食習慣で気を付けるポイントを理解する」「運動に取り組むことができる」「高血圧症にならない」などが目的になります。
これをはっきりさせない状態で計画していくと、健康教育自体が抽象的になってしまったり、最終的に評価しにくくなってしまいます。
また、目的が不明確なまま計画する方が、準備に時間がかかります。(筆者体験談)
健康教育を準備するうちに様々なアイディアを思いつきます。目的が不明確な状態だとそのアイディアに翻弄されてしまって、資料を作っては直し、作っては直しを繰り返すことにもなります。
そのため、まず目的をはっきりさせることが大切です。
目標
目標は目的を具体的にしたものです。
目標に対して評価するので、具体的かつ評価できるというのがポイントです。
例えば「高血圧症について理解する」という目標にした場合はどのように評価しますか。
何をもって「高血圧症について理解する」と判断するかが明確でないため、評価ができません。
評価しやすくする方法としては、
- 健康教育実施後のアンケートで参加者の80%以上が「理解できた」という回答をする
- 高血圧症についての簡単な問題を出し、その正答率が70%以上
- 次回の健康教育時に高血圧症の予防行動をとっている人の割合が60%以上 など
このような方法も考えられます。数値の目標にすると特に評価しやすいです。
対象者
健康教育の対象者は様々です。
- 乳幼児健康診査での歯磨きの方法
- スポーツ教室での熱中症予防
- 介護予防教室でのフレイル予防
- 高血圧リスクの高い人たちへの高血圧予防 など
4つ例を挙げました。ここに挙げたように年齢や疾患の有無、目的も様々です。
そのため、健康教育を実施するうえでは対象理解が重要になってきます。
対象理解をかみ砕いて言うならば、どんな特徴の人たちが健康教育を受けるかです。対象者についてどれだけ具体的にイメージできるかで、健康教育の内容は大きく変わってきます。対象者について十分に理解していない状態で健康教育を行うと、対象者が自分自身に当てはまらなくてつまらなく感じてしまったり、聞いた内容を実行するには至らなかったりします。つまり、対象理解が十分でないと、健康教育の効果が十分に得られなくなってしまいます。
筆者が健康教育をする際にも、対象理解は特に力を入れていました。
では1度具体的に考えてみましょう。
お題は介護予防教室(自主団体)での低栄養予防です。
あなたなら準備の段階で対象者にどんな特徴があるか確認しますか?
筆者はこんなところを確認します。
- 対象者の人数
- 男女比
- 年齢
- ADL
- 難聴の人はいないか
- 眼が悪い人はいないか
- 毎回参加する人が多いのか、参加者の入れ替わりが多いのか
- 日ごろの介護予防教室ではどのような取り組みが行われているのか
- 他の団体と比較したときの特徴はあるか
- 対象者の住む地域の食生活はどのようなものか
- 対象者の住む地域はウォーキングや散歩をする高齢者は多いか など
これは1例です。対象理解のためには、地区担当の保健師や対象となる介護予防教室の参加者に事前に話を伺っておくとイメージし易いでしょう。
方法
健康教育にはいろいろな方法があります。
保健師自身で健康教育を実施するのか、助産師、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、薬剤師、医師、管理栄養士などの専門職に依頼するのかでも異なります。
また、パワーポイントを使った講義形式なのか、グループワークなのか、実技があるのかでも違います。
最近では感染症対策の観点からオンラインにするかどうかも検討が必要でしょう。
選択肢は無限大にある健康教育の方法ですが、何が一番目的を達成しやすいかを考えて検討します。
周知
地域住民に健康教育を行うことを知ってもらうために、効果的な周知方法を検討します。
住民全体に健康教育を知ってもらう場合は、自治体の広報誌に掲載したり、ホームページで周知する方法もあります。また、ポスターを作成して商店や医療機関に掲示してもらうこともできます。
限定された対象者に健康教育を知ってもらう場合は、健診結果から生活習慣病ハイリスク者を抽出したり、対象者に直接電話をして周知することもあります。
このように目的や対象者に合わせた周知を行います。
練習
「練習」は筆者が健康教育をするうえで、とても大事にしていたポイントです。
筆者はまず、自分が話す内容を文字に起こし、原稿を作ります。
練習するときは最初何度か原稿を読みます。そのあとに原稿をチラ見しながら練習します。
最後には原稿を見ずにできるようにします。
原稿と本番とで一字一句合ってなくても良いです。健康教育は演劇の発表ではありませんので、対象者が目的とする行動をとればよいのです。そのため、多少言葉が違ったり、文を飛ばしてしまっても問題ありません。
それよりも、対象者の反応を見ながら、自然な形で実施できることが大切です。
評価
実施したら評価します。
評価を行うことで、次の健康教育に活かすことができます。また、次年度の予算確保の際にも、「この健康教育を実施することで住民にこのような利益がありました」といった風に表すことができます。
評価の方法でよく言われるのは次の3つです。
- プロセス評価
- アウトプット評価
- アウトカム評価
これは健康教育や保健事業だけでなく、健康に関係のない一般企業などでも用いられています。
これらをご紹介すると大変長くなりますので今回は割愛します。
評価はとても大切です。
品質管理などでよく使われるPDCAサイクルという概念があります。
Plan Do Check Actの頭文字です。このCheckは評価という意味です。
また日本の看護師なら必ず学ぶ看護過程という考え方があります。看護過程は看護師の基本的な考え方の1つで、次の要素で構成されています。
- 情報収集
- アセスメント
- 看護診断
- 計画
- 介入
- 評価
この中にもやはり評価があります。
PDCAサイクルにしろ看護過程にしろ評価は含まれています。行政職や一般業務としても保健師としても評価ということが大切であることが分かります。
まとめ
- 健康教育の流れは「目的を決める」「目標を決める」「対象理解」「方法を考える」「日程調整」「会場確保」「周知」「練習」「実施」「評価」
- 「対象理解」「練習」がポイント(筆者体験談)
今回は健康教育の流れについてご紹介しました。「日程調整」と「会場確保」は一般事務てきな要素が大きいため今回は端折りました。
今後の記事で、それぞれの項目についてもう少し詳しくお伝えできればと思います。
この記事が保健師を目指す学生さんや保健師への転職を考える方、現役保健師さんの参考になれば嬉しいです。
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