健康教育のポイント②目的・目標

保健師の日常

前回の記事で健康教育の流れをご紹介しました。

健康教育を実施するうえでまず1番最初に行うのが「目的の設定」です。その次に「目標の設定」です。

今回の記事では健康教育の目的・目標の設定についてご紹介します。

目的設定の重要性

「目的の設定」はとても重要です。

目的が不明確なまま健康教育の準備を進めていくことには次のようなデメリットがあります。

  • 保健師が何を言いたいのかが対象者に伝わらない
  • 対象者が行動変容しにくい
  • 準備に余分な時間がかかる

目的とはつまり「対象者にどうなってほしいか」です。健康教育を計画、実施する保健師が「対象者がどうなってほしいか」を明確にしていなければ、健康教育を受けた対象者もどうしたら良いのか分かりません。対象者に内容が伝わらなければ、行動変容にもつながらないというわけです。

目的が不明確なままだと準備に時間がかかります。

健康教育を計画するうえで、日程調整、会場確保、方法の検討、講師に誰を呼ぶか、人数制限を設けるか、対象者を公募にするかハイリスク者にするかなど様々なことを決めていきます。

それらを検討する上で時間がかかってしまうのです。

地域のサロンで介護予防の健康教育を行う際には、地区担当保健師が実施することで、「知っている人から聞く」ことができ、内容を理解しやすくなることもあります。地域のサロンに大学病院の医師を講師に依頼した場合、講師と対象者の間で疾患に対する理解度や介護予防へのモチベーションの違いが生じて十分な効果が得られないこともあります。
※これは一例です。この限りではありません。重要なのは目的を明確にすることです。

このように講師に依頼するかを決めるだけでも、目的が明確でないとより良い選択ができません。

そのため、まず「目的の設定」を行うことが重要です。

目的の設定方法

行政の保健師は、母子保健法や健康増進法などの法律や自治体の総合計画や健康日本21などの計画をもとに業務を実施します。

健康教育もそうした法律や計画に沿って行われるので、目的もそれに準じたものになります。

例1)

自治体版健康日本21の計画で、「市内の高血圧有病率が県より高い。高血圧有病率低下のため啓発をしていく」と記されていたとします。

この場合の健康教育の目的の設定は次のようなものが挙げられます。

  • 対象者が高血圧症について理解できる
  • 対象者が高血圧症の予防行動がとれる
  • 3か月後の対象者の血圧が下がっている など

例2)

地区診断の結果から「市内の3歳児は同規模市町村よりもう蝕のある割合が高い」ことが分かっています。乳幼児健診時に保護者向けに歯磨き指導を行うことになりました。この場合の目的は次のようなものが挙げられます。

  • 保護者が子と共に歯磨きを実施することができる
  • 仕上げ磨きの必要性が理解できる
  • 帰宅後、適切な方法で歯磨きをすることができる
  • 次年度のう蝕有病率が低下する など

例1、例2で挙げた目的はほんの一例ですので、実際に健康教育を行う場合には、市町村の実情に即した目的を検討する必要があります。

目標の重要性

目的を決めたら次に目標を決めます。

目標は目的を具体的にしたものです。

目標が重要なのは、健康教育は評価する必要があるからです。逆に言うと目標がないまま健康教育を行うと、評価がしにくく、次に活かすことができません。

例を挙げてみましょう。

「対象者が高血圧症について理解する」という目的を設定し、目標を設定しないまま健康教育の準備を進めたとします。多少抽象的な内容になるかもしれませんが、疾患の概要や食事や運動についての健康教育を実施することはできると思います。しかし、健康教育が終わって業務報告書を書きます。

業務報告書では、どのような内容を行って対象者からどのような反応が得られたか、事業として効果があったのかなどを記載します。

ここで問題が生じます。事業として効果があったのかが分からないのです。

具体的には「対象者が高血圧症について理解」したかどうかが分かりません。

では、どうしたら良いのでしょうか。それは具体的な目標を設定することで解決します。

  • 健康教育実施後のアンケートで「理解できた」という回答が70%以上である
  • 健康教育の最後に実施するクイズで参加者の正答率が80%以上である
  • 健康教育の1か月後に実施するアンケートで高血圧症の予防行動をとっている参加者が60%以上である
  • 次年度の健康診断結果で参加者の高血圧症有病率が低下している など

このような数値目標があると達成できたかどうかが一目瞭然です。健康診断結果での評価は、業務報告書を書く段階では評価できない場合があります。その場合は「参加者の次年度〇月の健康診断結果を確認し、高血圧症判定者の割合を確認する」と表記すればOKです。
※職場によっては、「健康教育を実施した時点で評価できることは記載した方が良い」とするところもあるようです。目標設定の段階で先輩や上司に相談することがお勧めです。

目標設定の方法

目標設定で筆者が大切にしていることは次の3つです。

  • 目的に合っていること
  • 達成可能であること
  • 評価できること

まず目的に合っている必要があります。これは、目標設定時に「この目的を達成するためにはどんな目標にしたら良いか」と考えることでクリアできます。

次に達成可能であるということです。収縮期血圧140mmHg以上の住民を対象とした健康教育で、1ヶ月後の血圧測定で120mmHg以下にすることは現実的でないでしょう。達成不可能な目標を立ててしまうと、健康教育の評価をするときに低い評価となってしまいます。達成可能を言い換えれば現実的な目標です。健康教育を行う上では現実的で、達成可能な目標設定が大切です。

そして評価できるということです。前述したように目標設定は評価をするうえでとても重要です。抽象的な目標にしてしまうと評価できないので、具体性が必要になります。

健康教育を行う上で目標を立てたら、他の事柄を決めていく前にこの3つを確認してみて下さい。

まとめ

  • 目的は法律や計画、地区診断に基づいている
  • 目標は目的を具体的にしたもの
  • 目標設定は「目的に合っているか」「達成可能か」「評価可能か」を確認する

今回は健康教育の目的・目標についてご紹介しました。

目的・目標の設定は健康教育の第一歩です。ここが不明確なままだと、計画の段階や実施の段階、評価の段階でうまくいかないことがあります。特に、計画に時間がかかります。

保健師は複数の事業を同時進行していて多忙な日々を過ごしています。業務効率を上げて定時で退庁(退社)するためにも目的・目標の設定は適切にすることをお勧めします。

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