健康教育のポイント③対象理解(モチベーション)

保健師の日常

「敵を知り己を知らば百戦危うからず」という言葉があります。

これは孫子の言葉で

「 敵と味方の情勢をよく知って戦えば、何度戦っても敗れることはない。」という意味です。「相手方と自分の方との優劣長短をよく知ることの大切さ」について表現しています。※1

つまりは「相手を十分に理解すること、自分を十分に理解すること」が大切なのです。

これは、健康教育にも通じています。健康教育で相手を理解することは対象理解です。自分を理解することは、自分の話し方や視線、自分が相手に与えている印象などを理解することです。自分を理解することは、「練習」のところでお伝えしようと思います。

今回のテーマは、孫子も大切だと言っている対象理解です。特に対象者の健康へのモチベーションについてご紹介します。

保健師としての仕事や保健師学生の授業の参考となれば嬉しいです。

※1コトバンクから引用

対象者のモチベーション

対象者の健康へのモチベーションによって健康教育の内容も方法も大きく変わってきます。

次の場合を考えてみましょう。

  1. 地域の介護予防団体からロコモ予防についての健康教育を依頼された
  2. 健康診断の結果から高血圧リスクの高い住民を対象に高血圧予防の健康教育を行う(予約制)
  3. 地域の食事指導ボランティアを育成するために健康教育を行う

これらの場合は、いずれもモチベーションの高い方が対象となります。

1の対象者は、日ごろから介護予防活動を行っています。介護予防活動へ参加する動機は「楽しいから」「人と話したいから」といった人が大勢ですが、他の住民に比べて介護予防に関する知識は多く、介護予防を意識して生活している方も少なくないと考えられます。

2の対象者は、「高血圧予防について知りたい」と思うだけでなく、予約をするという行動を起こしています。この予約という行動は、健康に無関心な方にはとてもハードルの高い行為です。そのハードルを乗り越えて予約してきた方々は、ほとんどが高血圧予防へのモチベーションが高いと考えられます。

3では「食事に関するボランティア活動をしたい」とう方が応募してきます。これは2以上にモチベーションが高くないと行うえない行動です。2の場合は自分の健康が参加者の目的ですが、3は他者の健康、もしくは社会貢献のために食事について学びたいと思う方です。この教室へ応募してくる方の中には保健師以上に食事や栄養について詳しい方がいるかもしれませんね。

では次に、もう3つ例を挙げてみましょう。

  1. 老人クラブへのロコモ予防の健康教育(保健センターの事業)
  2. 乳幼児健診に来た保護者への歯磨きに関する健康教育
  3. 小学校の学校保健委員会での睡眠に関する健康教育

これらの場合はいずれも対象者の健康へのモチベーションは高いとは言えません。

正確にはモチベーションが高い人も低い人もいるという表現になります。

1は前述した介護予防団体での健康教育と似ていますが、保健センター主導の事業である点が異なっています。これは保健センターから老人クラブへ「介護予防の話をさせてくれませんか」とお願いして実施しています。老人クラブは介護予防団体とは異なり日ごろから健康に関する活動はしていません。そのため、健康に関するモチベーションが高い人の集まりではないのです。

2について考えてみましょう。日本の乳幼児健診の受診率は95.4%です。※2
つまりほとんどの保護者が我が子を健診に連れてきます。その中には虫歯予防のための歯磨きに関心が高い人もいれば低い人もいます。

3は小学校の児童と保護者へ行う健康教育です。1、2と同様に睡眠への関心が高い人を集めたわけではありません。児童にも保護者にも睡眠について意識が高い人もいれば低い人もいます。特に学校保健委員会に参加する保護者の中には「学校の行事だから参加する」という方もいます。健康教育を受けたくて参加する人は少ないのではないかとも思います。

このように、健康教育の対象者によって健康へのモチベーションは大きく異なります。

※2厚生労働省 令和元年度地域保健・健康増進事業報告から引用

モチベーションに合わせた健康教育

関心の度合いに合わせた内容を検討する必要があります。

対象者のモチベーションを理解しないまま健康教育を行うとどうなるでしょうか。

例えばモチベーションの高い対象者に対しての健康教育でモチベーションを上げる内容をふんだんに盛り込んだ健康教育を行ったらどうなるでしょうか。対象者は「必要性は分かったから予防方法を教えてほしい」「結局何をしたらいいんだろう」と感じます。そしてつまらなく感じてしまいます。

逆にモチベーションの低い対象者に対して様々な病気の予防方法について紹介する健康教育を行ったらどうなるでしょうか。学生時代の眠くなる授業のような健康教育になってしまいます。

このような状況に陥らないためにも健康教育では対象者のモチベーション理解が大切になるのです。

まとめ

  • 健康教育は対象者の健康へのモチベーションの高い場合と、健康へのモチベーションが低い場合がある
  • 対象者のモチベーションに合わせた内容の検討が必要

今回は対象者のモチベーションについてご紹介しました。

いくつかの例を挙げましたが、この限りではありません。

筆者は小学生への健康教育で、「児童はあんまり健康に関心がないだろう」と思い、関心を引くための要素を多く入れた健康教育を実施しました。しかし、児童の健康へのモチベーションはとても高かったのです。そのため、児童の関心を引くための要素のいくつかは不要となり、内容も児童の期待に応えるには不十分なものになってしまいました。

この経験から言えることは、「介護予防教室参加者はモチベーションが高い」「小中学校の児童生徒はモチベーションが低い」といったステレオタイプな対象理解は外れるということです。対象となる集団がどういった特徴かは地区担当保健師や先輩保健師に聞いてみたり、地域住民と関わる中で知ることができます。

対象者のモチベーションを理解出来たら健康教育の方向性を徐々にイメージすることができます。是非、この記事を参考にしてみて下さい。

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